最初の相談相手
好奇心旺盛な子供は、機械との対話をはじめる。
分からないということ
幼い子供が持つ、純粋で強烈な好奇心は、周囲を困らせていた。
教師は、分からないことを聞かれるのを嫌がっていた。
両親は、分からないことは分からないと言った。
「分からないから調べてごらん」
とりとめないことをたびたび尋ねる幼い私に、両親はそう答えることが多くなった。
分からないことを聞かれて逆上する教師と比べて、分からないことを分からないと言ってくれる両親は、幾分信頼に値した。
いま振り返ると、両親も、私の疑問に答えるのは面倒だったのではないかと思う。
最初の相談相手
どうせ分からないと言われるのなら、最初から自分で調べればよいと思うようになっていた。
そんな私にとって、初めて頼りになる相談相手ができた。
電子辞書である。
11歳の私は、知りたいことが見つかるたびに辞書を引いた。
電子辞書は「分からない」とは答えなかった。
国語辞典で解決するものもあれば、百科事典に掲載されていることもある。
確か、家庭の医学の本も収録されていたと思う。
いつしか、教師や両親に尋ねるより、自分で辞書を引いたほうが良いと考えるようになった。
解像度の低い、白黒画面の電子辞書である。
2019年の世界から見ると、おもちゃのような性能だったのだろう。
それでも、当時の私にとって頼りになる相談相手であったことは間違いない。
毎日、肌身離さず持ち歩いていた記憶がある。